本は変わる! 印刷情報文化論

本は変わる! 印刷情報文化論
中西秀彦 著 
2003年9月30日 東京創元社 刊 
ISBN4-488-02377-0
1400円+税

本人コメント ひさびさの書き下ろし評論です。今回は今までの私の著作と違い、個人的体験ばかりではなく、積極的に現在の状況などを取材して、現在の電子本に関する最先端の試みを紹介しています。それとともに、未来の電子社会のあり方と出版社と印刷屋がいかにして生き残るかを考えました。

目次

はじめに オールドメディアからニューメディアへ

第一章 極端に短い印刷の歴史

 印刷のはじまり/グーテンベルグの活版印刷術/マスコミと高速大量印刷/高

度経済成長時代の「活字」/活版印刷というもの/なぜ活版だったか/コンピュー

タの登場/ワープロ時代

第二章 私的印刷現代史

 活版の工場へ/電算写植の導入/愚直なコンピュータと職人魂/活版の終焉/

電算化の泥沼/DTPの衝撃/「個人」のための印刷システム/「言論の自由」

と印刷/文字から画像へ/CTP

第三章 オンデマンド印刷論

 置き忘れられた印刷/大量生産の時代/オンデマンド印刷のコンセプト/オン

デマンド印刷の技術/ドキュテック/オンデマンド出版の背景/オンデマンド印

刷の特徴/コンピュータ・データとの親和性/オンデマンド印刷の弱点/オンデ

マンド印刷を使った出版/日販ブッキング/リキエスタ/ブックパーク/本屋の

店頭でのオンデマンド/実験後のゆくえ/オンデマンド印刷論/

第四章 マルチメディア

 マルチメディアとは/マルチメディアの産み出すもの/マルチメディアはフル

デジタル/CD-ROMの世界/『新潮文庫の100冊』/『広辞苑 マルチメ

ディア版』/『マイクロソフト・エンカルタ』/マルチメディアの停滞/いでよ、

マルチメディアの天才/CD-ROM、期待から落胆へ/インターネットの登場

第五章 インターネット

 インターネットの世界/インターネット普及の理由/ネットの意味/自己増殖

するシステム/万民の表現手段/表現の連鎖/商業利用へ/物のない物流/「青

空文庫」/インターネット「本」の利点/「プロジェクト・グーテンベルグ」と

著作権の呪縛/インターネットが「本」に変わる日/「e-novels」の奮闘

第六章 オンライン・ジャーナル

 アメリカからの衝撃/印刷による雑誌/電子の雑誌/メイルマガジン/ウェブ

マガジン/オンライン・ジャーナル/ハイワイヤー/学術論文のオンライン化の

意義/オンライン・ジャーナルのメリット/領域横断検索の魔力/引用ネットワー

クの網の目/Oxford University Pressとの提携

第七章 メディア革命の結末

 メディア革命の未来/メディアの逆転現象/情報の断片化/WWWの特性/共

通知識の崩壊/テレビから共通話題の崩壊/趣味の多様化/「おたく」現象/

「おたく」とインターネット/コレクターズ・フォーラム/国際おたくとマルチ

メディア/断片化の行く末/情報化社会の末路

終章 それで、どうする?

 産業としての「本」/大英博物館大閲覧室/本の利点/アフリカの民話/本の

挑戦 その一 オンデマンド対応/本の挑戦 その二 インターネット・シフト

/インターネットと「本」の統合/いかなる「本」を作るか

 あとがき

 この本の内容自体は一九九九年から二〇〇〇年に立命館大学で行った「情報文化論」の講義を元にしている。この講義は「印刷会社経営者という当事者の立場から現在のメディアのありようを学生に実況中継して欲しい」という依頼のもとにおこなった。大学の先生なんて初めての経験だから結構楽しんでやらせてもらったのだが、このときかなり資料をまとめたので、本のかたちに残しておきたく思ったのがすべてのはじまりだ。本自体は講義の際に使ったパワーポイント(プレゼンテーションソフト)ファイルを文章のかたちでまとめれば簡単にできると思っていたのだが、結局完成までに三年もかかってしまった。

 ひとつには、この時期、本業の印刷業が一番厳しい時期で、時間的にも精神的にもパソコンの前で長時間執筆するのが困難だったことがある。そしてもうひとつは、あまりにこの業界の変転がはやすぎた。取材しても取材してもこと電子書籍に関してはあらたな動きがでてくるのである。動きがあれば、それをこの本の内容にもりこみたくなる。もりこめば今度は論議の部分も書き換えざるをえなくなってしまう。書き換えている間にまた新しい動きがあるという連鎖の環にはまりこんでしまい、ぬけだせなくなってしまったのだ。これを無限にやっていたのでは永遠に本が出ないので、とりあえずここで断ち切ることにした。すくなとも二〇〇三年六月時点では本に関するあたらしい試みを網羅している(はずだ)。

 さて、この本を読まれて、なんとなくSFのにおいがするのに各所で気づかれたはずだ。これがこの本が東京創元社から出ている大きな理由なのだ。実は私も含めて、今DTPの現場や電子書籍の現場で活躍している面々には現元を問わずSFファンが多い。理由は簡単で、彼らは本が好きでかつコンピュータ(を含めた科学全般)が好きなのだ。パソコン通信時代、まず流行ったのがSF関係の掲示板であったのと同じ理屈だ。いわゆる普通の本好きの人々にはコンピュータに好意的でない人が多く、電子書籍などというとほとんど食わず嫌いな拒否反応を示されることがある。SFファンはたぶんその対極にあるのだろう。そういう意味で、東京創元社の編集部、小浜徹也君がSFファンでなければ、この本の企画が通ることはなかっただろう。SFファンのネットワークと小浜君に感謝する次第だ。

 妻、成子にはパパと遊ぼうと書斎に突進してくる子供たちをとにかくも阻止してくれたことに感謝したい。子供たち明日輝と公輝は生まれたときからインターネットづけの環境でも、しごく真っ当にかわいく成長することを実証してくれた。そろそろパパの本を読んでくれると嬉しいな。

 この本は一応紙の本を前提として作っているが、電子本としても流通していくはずで、実際に読まれているのは画面でということも多いだろうと思う。この本の出版後あと一〇年か二〇年ぐらいたってデジタルアーカイブにうつされたとき、どんな読み方をされているか非常に楽しみだ。

 最後に、この本は私の五冊目の著作となる。私の本のあと書きはいつもこの言葉でしめくくることにしている。お買いあげいただいた全国の読者のみなさま。

まいどおおきに

                                 中西秀彦

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